有名人百合系SSまとめ
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┗由利×七A01
作者:不明
無機質な時計の針はもうもう深夜の1時を示している。
耳障りな車のエンジン音・・・ワケのわからない若者達のわめき声もすっかりなりを潜めている。
深夜のスタジオにAZUKIの指が奏でるメロディがゆっくりと流れている・・・

奥の暗闇にうっすらと輪郭を移している華奢な女性のシルエットが佇んでいる。

 無言・・・静寂

他のメンバーもスタッフさえもこの場にはいない。

ふたりだけの時間が秒針と共に夜を散歩している。

 「・・・」
 「何?」
由利は一言も発していないのに、AZUKIは指を止めて影を見つめる・・・。

 「この曲さ・・・」
静かに声をなびかせる由利。

 「誰を・・・」
誰を想って書いたの?

そう聞こうとしたのだが、何故か言葉が続かない。

 「・・・」
 「・・・」
再び部屋を支配する無音・・・。

口を開く代わりに白い指が薄闇の中、再び優雅に踊り始める・・・。

どこか物悲しいそのメロディに身を任せながら由利は引き寄せられるように彼女に近づく。
無機質なキーボードの縁に軽く手を置き、瞼を閉じる。
部屋を支配する旋律を聴こうとするのではなく、感じ取ろうとする。

頭に、いや心に浮かぶイメージ
 自分に背を向けうずくまっている少女・・・その悲しい背
 耐えられないほどの切なさに、少女の身体に腕を回す女性・・・その顔は・・・

数時間前に渡された詩 それに応えて作り上げた曲
                   その曲を弾いている彼女・・・

抱きしめた身体は温かく・・・そして柔らかく・・・
触れているだけで満ち足りていく
 「・・・」
何事かを呟いて振り向いた少女の顔は・・・

 「温かいね・・・」
 「ん? そうだね・・・」
交わされるのは短い言葉  会話とはいえないような言葉のやり取り。

でも、耳に聞こえない言葉で二人はゆっくりと会話をしている。

思い描いた二人の顔・・・
少女を後ろから抱きしめた女性は・・・自分
悲しみに揺らめき、今すぐ抱きとめてあげないと散ってしまいそうな少女は・・・

       AZUKI

それを口にしたら彼女はどんな顔をするだろう?

 「これね・・・」
不意に彼女が口を開いた。

 「この詩・・・ゆりっぺを想いながら書いたんだよって言ったら・・・どう?」
  ちょっと空けた間は、信じられないぐらいに長くて・・・
 「・・・・・・・・・かゆい」
 
    止まる指・・・ 消える音・・・・

 「何ソレ〜!」
そして無邪気に笑う彼女につられて由利も表情を崩す。
 「だって、かゆいんだもん」
 「ひっど〜い!」

深夜のスタジオに響く楽しげな言い争いはいつ終わるとも無く続いていった。
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