二次元キャラ系SSまとめ
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┗天野×杉A01
作者:不明
◆キャスト
天野ひかる…深津絵里
杉裕里子…鈴木京香
コンコン、
約束の時間よりほんの少し早い。ちょっと弾んだノックの音は、あの娘がやって来た合図。
どーぞと声を掛けると、遠慮気味にドアが開いた。

「先生!」

入って来るなり小走り。飛びついてこようとした天野に、眉をひそめて見せる。

「駄目よ」
「えっ」
「後にしてくれる?まだ仕事中」

そっけなく鼻先にペンを突きつけてやったら、天野は目を丸くして。
そのまま大人しくソファに腰を下ろして、おあずけをくらった子犬みたいに。うなだれてる姿にちょっと吹き出す。
ホントはすぐにでも抱き締めてやりたいけど。楽しみは一気にがっつくものじゃない。

「早かったのね」
「え?そりゃあ…だって…会いたかったですから?」
「ふーん」
「ふーん、って!」

そんな真正面から会いたかっただなんて言われて、素直に喜べるはずもなくて。
照れくさくてありがとうも言えやしない。

「冷たいんですね、先生」
「そう?」
「そうですよ!先生は、わたしに会いたくなかったんですか?」

両手を膝に置いて、まっすぐな目。そんな天野を横目に見ながら、内心大急ぎでレポートを片付ける。あと、少し。

「さあ。会いたかったと言えば会いたかったし、会いたくなかったと言えば会いたくなかったし」
「またそんなこと言ってー…!」
「ね。私、時間通りに来てってあなたに言わなかった?」
「…言いました」
「言ったわよね。なら、早く来すぎたあなたの責任よ。違う?」
「そうです、けど」
「そ。なら、大人しく待ってるのね」
「もー、わかってますよー!…」

勢いでちょっと腰を浮かしかけていたらしくて、しばらくしてまたストンと座る音。
どうしてこう意地悪ばっかり言ってしまうのか、自分でも良く分からない。
…許してね、天野。
後でいっぱい甘えさせてあげる。
そのためにもやっぱり、これを早く片付けたい。私はしばらく仕事に集中する事にした。

「……」
「……」
「…せんせ」
「なーに」
「……」
「……」
「すーぎせーんせ」
「ん?」

先生、って今ので七回目。呼んだ後に言葉が続かないから問いただしてみれば、ただ呼んだだけだとか。
何がしたいのかさっぱり分からないけど、なんだか可愛くて仕方ない。
そう呼ばれるのは嫌いなはずなのに。どうしてかこの娘に呼ばれるのは…悪くない。



カタカタ、カタ!
キーボード、最後の一行。
時間はぴったり。

お待たせ?

椅子ごとくるりと天野の方を向く。途端にぱぁっと広がる笑顔。

ほとんど同時に立ち上がって、一歩、二歩。
ゼロになる距離。
なんだかもうたまらなくなって、抱きつかれる前にこっちから抱き締めてやった。

腕の中で小さく「わぁっ」って聞こえて、なんとなく笑いが込みあげる。

「先生──」
「あー会いたかったっ」

あんまり嬉しそうに聞こえないように、ちょっと投げやりな感じに。きっと隠しきれてない、けど。

そのまま肩に顔を埋めたら天野がぎゅーっと抱き返してきて、頭なんか撫でてくれたりして。
──やっとありつけた。
おあずけくらってたの、ホントは私の方かもしれない。なんて思いながら。
あんまり心地良くて、もうほんのちょっとだけぎゅっと抱いてやった。
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