2007/05/16
┣茉莉花×小梅A03
作者:むらさめ
◆キャスト
茉莉花(ジャスミン)…木下あゆ美
小梅(ウメコ)…菊地美香
彼女を背負って、センちゃんと一緒にメディカルセンターに運んだ。
付き添いでスワンさんも来てくれた。
診断結果は過労。
笑顔を見せはじめてても悩み続けてたんだと思う。
一緒に居た時間は多かったけど、私の知らない所で一人で泣いてたんだろう。
「はい、これ」
解熱剤の点滴が効いてベッドの上で寝息を立ててるウメコの横で、センちゃんはさっき私がフロアに投げ捨てた手袋を差し出してくれた。
人間ってのは本当に勝手なもので、クールダウンしちゃうとさっきまでの怒りが何処へやら。
取り乱した事の後悔と情けなさ、そしてセンちゃんに対して申し訳ない気持ちになる。
「・・・メンゴ。痛かった?」
「うん、痛かったよ。でも中々どうして、よくきくパンチとビンタでした、っと」
腫れた口元を緩ませた笑い顔は、元通りの優しいセンちゃんだった。
「・・・あれ?」
そうこうするうちに、ウメコが目を覚ました。
「ハウアーユー?目覚めはいかが?」
「アイムファイン・・・って、やだよ、注射?」
「点滴だよ〜ん。もうちょっと我慢の子。すぐ終わるから・・・」
会話が、途切れた。
ウメコの視線が私から逸れて、私もウメコから視線を逸らす。
すぐ隣に、椅子から立ち上がったセンちゃんが居た。
手袋をしてない素手のままで触れてるベッドのパイプを握ってる。
冷たい鉄棒越しに、何を考えてたのかが分かった。
さっき吐いた悪態、それは決して本心からじゃなかった。
センちゃんがウメコに対して持ってた気持ちは『彼女』じゃなくて『妹』。
そんな気持ちのまま、恋人の関係を続けることに悩み続けた。
このままの気持ちで接しても、一生懸命なウメコを傷つけるだけ。
それを悟ったセンちゃんが選んだ方法・・・自分ひとりで何もかもを背負って、ウメコを解き放つ事だった。
私がウメコに持ってた感情、それも全部理解した上で・・・わざと貧乏くじを引いて、決着を着けようとした。
SPライセンスのエマージェンシーコールが鳴る。
「ウメコ、よかったね。淋しがりだから、何があっても絶対に離れちゃダメだよ?」
何でそんなに優しい顔になれるの?
今さっき私はウメコの事、奪おうとしてたんだよ?
唇を噛んで椅子から立ち上がろうとする私の肩をセンちゃんはポン、と叩いた後、背中を向けて病室の扉を開けた。
「じゃ、出るわね。ここにシュークリーム置いとくわ、お見舞いよ」
黙って見てたスワンさんも出て行った後、涙が溢れた。
理由なんて分からない。
センちゃんを打ったことに対する罪悪感じゃない。
心の奥に閉じ込めてたウメコへの気持ちを誰かに悟られた事に対する悔しさじゃない。
ましてや、センちゃんからウメコを横恋慕しちゃう事への罪悪感なんかじゃ、決してない。
ただ、泣きたかった。
――泣かないで――
握り締めた私の手の甲に落ちた涙の滴から、ウメコの声が聞こえた。
目をやるとベッドから身体を起こして、私を見ながら泣いてた。
滲んだ視界から映ってる顔は、泣き笑い。
泣きながらムリして笑おうとしてるんじゃなくて、キラキラした笑顔に涙がくっついてきてる、そんな表情だった。
「何で泣くの?泣いちゃやだよ」
「ウメコだって、泣いてる・・・お岩さんみたいな顔してる」
「うるさいなぁ、そっちだって化粧崩れてるじゃん」
おどけ合いながら泣いた後で食べたシュークリームの味は、少しだけしょっぱかった。
五日後。
私は今、いつものパトロールコースをマシンドーベルマンで走ってる。
暖かい日差しが眩しくて、気持ちいいなぁ。
こういうのを「ピーカン」って言うんだけど・・・死語だっけ?
本当だったらテツとペアなんだけど、助手席に陣取ってるのは・・・
「ね、この桜餅おいしい。ジャスミンも食べようよ」
「ウメコさん、ミッション中です・・・あんまり食べると、ぶたぶたこぶたになるよ」
あれからもっといっぱい泣いて、元に・・・もとい、前よりも「良い子強い子めげない子」になったウメコ。
『しばらくは一緒に行動するように』っていう、ボスとスワンさんの命令だった。スペシャルポリスの元気印な彼女の事を、二人も二人でかなり心配してたんだと思う。
「ねぇ」
「何じゃらほい」
「ちょっと寄り道しよ?」
小さな海浜公園に差し掛かったくらいで、彼女は口を動かしながらウインドウの外を眺めて言った。
チラッと目をやると、空の色とは違う濃い群青色が広がってる。
「あらロマンチストさん。花より団子じゃないの?」
「いいじゃん!私と一緒やなの?」
「嫌じゃないよ〜〜だ」
「じゃ決まり!!デートしよ、デート」
そうだそうだと言いました、と・・・言う事、聞いてあげよっと。