2006/08/31
┣天野×杉E01
作者:どこ天
◆キャスト
天野ひかる…深津絵里
杉裕里子…鈴木京香
[どこまでも下な天野も好きだ]
「たまには…っ…、私のいうことも聞いてください…」
いつもとは違い、視界の反転しない今日。
ちょっぴりお酒が入っている所為かもしれないけれど、私結構とんでもないことしちゃってるのかな。
私の下には、杉先生。
その両眼はしっかりと私を見つめて。
そんなに何でも見透かすような瞳で見つめないでください。私の考えてることなんて、全部お見通しよって…余裕な大人の女性。
だから私は悔しくて、少しでも先生に近づきたくて、焦って必死で頑張っているのに…こんなことくらいでしか反撃出来ないなんて。
「いいわ」
「えっ?」
暫く無言で私を見つめていた先生の手がそっと伸びて、私の首に回される。
驚いていたのと急に力が加えられたのとで、バランスを崩した私はみっともなく先生に倒れこむ形になってしまった。
「いつもいつもやられてばっかりじゃ不公平だものね。たまには天野の言うことも、聞いてあげる」
「先生…」
身体を起こすと、何だか楽しそうな先生の顔。
何考えてるのかなってちょっと気になるけど…笑顔の先生を見れるのはすごく嬉しい。それも、こんなに近くで。
まるで子供をあやすみたいに優しく髪を撫でてくれる、そんなことも、私だけの特権だって思うと…嬉しくて仕方ない。
「ほら、ボサッとしてないで。いつも私のやってることは解ってるでしょう、最初はどうするの?」
…えぇっと、一応私が主導権を握ってるはず…なんだけどなぁ…。
「え…、と…最初は…」
――キス。
「天野?」
自分でもよくわからないうちに、身体が固まる。どうしちゃったんだろう、私。キス…っていうのは解ってるんだけど、どうしてだか身体が動いてくれない。
酔いがさめてきちゃったんだろうか、それとも瞳が逸らせないくらい綺麗な唇に私は魅せられてしまったんだろうか。
「先生…」
焦燥感と情けなさで、何だか泣きそうになる。先生を待たせているのに、身体が動いてくれないなんて…私って一体どこまで未熟者なんだろう。
「馬鹿天野。言ったでしょう?自分の手に余るようなことはするもんじゃないの」
不意に先生の手が下りてきて、私の両頬を優しく包む。その顔は、やっぱり微笑んだまま。
それがあんまり温かくて安心して、思わず溢してしまった涙も先生の指先がそっと拭ってくれる。
「今回…というより、まだまだおあずけね。監察医の仕事と一緒で天野にはまず経験そのものが大切みたいだし」
「…先生、それは」
どういうことですか、と訊こうとしたところで唇が塞がれた。
そして、反転する視界。いつもと同じ、見上げれば綺麗に整った穏やかな顔。
「私の上になるのはまだまだ早い、ってこと」
それからの杉先生の個人授業、私はやっぱりキスまでしか覚えていられなかった。
道程はまだまだ、長いみたい。