二次元キャラ系SSまとめ
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┣茉莉花×小梅A41
作者:むらさめ
◆キャスト
茉莉花(ジャスミン)…木下あゆ美
小梅(ウメコ)…菊地美香
小津芳香…別府あゆみ
男(天道総司・仮面ライダーカブト)…水嶋ヒロ
[another fireball]


桜の季節が過ぎた繁華街は、初夏の陽射しが降り注いでいる。
休日はお客でごった返しているこの街も、平日のこの日は人が疎ら。
宇宙警察地球署、SPDのメンバーとしての多忙な日々の合間のまとまった休日。

「ウメちゃ〜〜ん」

汗ばむほどの陽気の中、葉桜になった木の下で待ち合わせをしていた胡堂小梅は、聞き覚えのある声に思わず振り返った。
愛称はウメコ、でもウメちゃんって呼んでくれるのは一人だけ。

「あれ・・・芳香ちゃん?」
「久しぶりだね!元気だった?」

女性はピースサインを作ってそれを目元にあてがいながら微笑んだ。
そして手を取り合いながら、再会を喜び合う。

「すごいね、デート?」
「うんっ、今日ね、三回目なの!!芳香ちゃんスマイルで頑張るんだ!!」

小梅が芳香に目をやると、勝負服、きれいなメイク。
そして香水のいい匂い。
(・・・あのメモ帳の男の子達かな・・・)
「うわぁ、すごい」って相槌を打ちながら、一年前に見せてくれた分厚いメモ帳の事を思い出す。
相変わらずだなぁ。
唖然としながらも、変な懐かしさに支配される。

「ウメちゃんも待ち合わせでしょ?」
「うん、そうだよ」
「ふ〜ん」
含み笑いをして、さも当然のように続ける。

「センちゃんさんとでしょ?隠したって無駄だよ?芳香お見通しなんだから〜」
肩の辺りをうりうり肘で小突かれながら、小梅は少し黙った。

やばい。
まだ芳香ちゃんに話してなかった。
もう一年近く経ってるから、話さなくてもいいかなって思ってたけど・・・
芳香ちゃんや魁君達、魔法使いの兄弟『小津家』と地球署のメンバーが一緒に戦った後、わたしはセンさんとダメになった。
そんなだから、ちょくちょく相談に乗ってもらってた芳香ちゃんとは疎遠になって・・・だから何にも知らなかったんだっけ。
まぁ確かにフラれた時は傷ついたけど、今は新しい人も出来て、センさんと居た時よりももっと幸せ。
でも、どうしよ?
今のわたしの事、話そっかな?
もうちょっとしたらあの人も来ちゃうし・・・何より芳香ちゃん、あざといからなぁ・・・

「こ〜〜〜〜うめちゃ〜〜ん、あ〜〜〜〜そぼ〜〜〜〜!!」

苦笑いしながら黙りこくった小梅と、刑事の取調べのように矢継ぎ早な芳香。
そんな二人に割って入るように・・・というか、小梅を助けるように『あの人』がやって来る。
女性の声。
穏やかそうな声色を無理矢理ハイトーンにしているような感じの声だった。
切れ長の瞳、ボブカットが少し伸びた感じの髪形。
右ひざが破れたジーンズにブーツ、シックな色合いのジャケット。
何より特徴的なのは、両手に着けている、レザーの手袋。
ミニスカートにサマーセーターという、いかにも女の子らしい出で立ちの小梅とは対照的。

「ジャスミン、遅いよ。十分遅刻!」
ジャスミンと呼ばれた女性は、照れくさそうに頭を掻いた。

礼紋茉莉花、愛称はジャスミン。
同僚であり、コンビであり、仲のいい友人であり、何よりセンこと江成仙一と別れた小梅の新しいパートナー・・・などといった回りくどい言い方をしないで遠慮会釈なく言ってしまえば、恋人同士。
小梅の惚れっぽい性格で遠回りが続いていたのだが、仙一との離別によって茉莉花の大切さに気付き、「女の子同士」を乗り越えて現在に至っている。
「お腹ペコペコだよ、もうっ」
「はいはい、メンゴメンゴ。いつもだったらウメコが待たせるのにね」
「それは言わない約束だよ、」
「おっかさん!じゃ、レッツラゴー!!」

レッツラゴー、にことさら力を強く込めて。
茉莉花はまるでリードに繋いだ犬を引っ張るように、手袋をした右手で小梅の左手を強く引っ張る。
「ぅわっ!!」
「さぁ、行こ行こ!!早くしないとランチなくなっちゃうよ〜〜」
背中を向けた茉莉花は楽しそうな声、でも変。
「ちょっと待ってよ!」
小梅の言葉に、引っ張っていた茉莉花はパタッと止まって、くるりと踵を返した。
まるで機嫌の悪い猫みたいなオーラが出ている。
アリエナイザーでも見るような目つきで芳香を見ている。
握られた左手の指を、掌の中でぐりぐり転がされてる。

・・・?
もしかして怒ってる?
ううん、もしかしてじゃなくて・・・絶対に怒ってる。
すごく怒ってる。

即座に茉莉花の手袋を外して自分の『主張』を込めながら握る。

さっき芳香ちゃんにセンさんの事聞かれて答えに戸惑っちゃったの、見たんだね。
嫌だよね、前の付き合ってた人の事、誰か聞かれたりするの嫌だし、いい気分しないよね。
でもさぁ、そんな恐い顔しなくったっていいじゃん。
芳香ちゃん、何も知らなかったんだよ?
それにもう、ジャスミンが居てくれるからへっちゃらだもん!
そんな事で怒るジャスミンの方が、ナンセンス!!

ところがどっこい、当の本人は・・・恋人の声が聞こえてても、わざと聞こえないフリ。

「あ〜あ、嫌ンなっちゃうな、デリカシーの無い人!可哀相だね、心が痛かろうよ」

まるでフォークソングのような言い回しで、芳香をなじる。
あちゃ〜〜、だめだこりゃ・・・

「ジャスミン!!」
とうとう小梅は叱るような口調で声を上げた。
いつもは茉莉花が小梅を叱り付けるシチュエーションなのだが。

「おお〜〜恐。何じゃらほい?」
「何じゃらほいじゃないでしょ?そんなにツンツンしなくていいじゃん、芳香ちゃん何にも知らないんだよ?」
「知らないからって、聞かないでいい事ってあるでしょ?」
「だから、知らないから・・・もうっ、天邪鬼!!」


「きゃあっ!」

それまで二人の口論を好奇の眼差しで聞いていた芳香が何かに突き飛ばされて声を上げながら転ぶのと、交差点の信号が青になって『とおりゃんせ』が流れ出すのとはほとんど同時。

「おやまぁ、大丈夫・・・?」
いい気がしないとはいえ、茉莉花もさすがに人の子。
ヒートアップしそうになる小梅を制して、一緒に芳香に歩み寄る。

「いたた・・・」
「突き飛ばされたの?」
「感じ悪いな、謝っていけばいいのに〜・・・あれ?あれれ?」
衣服に付いた砂を払い落とすより先に、自分の手元を確認した後でおろおろしたような表情で辺りを見回す。

「芳香、ちゃん?」
「やだ、無いよ、芳香のバッグ・・・あの中お財布とマージフォン入ってるの・・・」

ふっと茉莉花が横断歩道を見ると、初夏のこの時期に不釣合いな、見るからに怪しそうな黒ずくめの人影が人目を避けるように早足で歩いていた。

一応警察官、職業柄『嫌な予感』というのはこういう状況で感じてしまうもの。
「ウメコ、ちょっとあれ見てミソ」
「何?」
「さっき芳香ちゃんにぶつかってきたの、アイツじゃない?」
「う〜ん・・・なんかそんなだったような気もするけど・・・」
何だろ、あれ・・・
人にぶつかっといて謝りもしないで、そそくさ逃げていくなんて。
おまけにこのタイミングで芳香ちゃんのバッグが無くなっちゃうって・・・まさか?

二人の頭に『ひったくり』という物騒な単語が浮かんだその後、私服のポケットから鳴り響くSPライセンスのコール。
アリエナイザー出現を知らせるエマージェンシーコールだった。

【デート中ごめんあそばせ。出たわよ、大物!他のコ達にもコールしたわよ】
「スワンさん、やっぱりですか?」
【やっぱりって?アナタ達何か知ってるの?】
「わたし達、さっきそれっぽいのに出会っちゃったかも・・・全身黒ですか?」
とにかくこれを見て、と言った後でモニターからスワンの顔が消えて、数日前にドギーとスワンに配布された資料が映し出される。

『リタカ星人ルドブン。
18の星系で無差別に殺人や強盗、窃盗や暴行を繰り返しており、現在本部より指名手配中。
尚、活動する際には擬態して黒いコートを着用しており・・・・・・』

資料の内容に全部目を通さないうちに、行動を開始する。
頭の中身を休日から捜査に切り替えるのに合図は要らなかった。
小梅が周囲から情報を収集する間、茉莉花は利き手から手袋を外して、地面にそっと触れる。
冷たいアスファルトから掌に。
掌から神経に。
神経から意識の奥に。

―芳香ちゃんにぶつかった男の正体・・・地球人ではない、禍々しい姿―
―それをひた隠す人間の姿、両手に装備された武器―
―わざとぶつかった後、その手で芳香ちゃんのバッグを奪って―

「何か解った?」
茉莉花は閉じていた眼を開けると、駆け寄ってくる小梅に口を開く。

「うん、周りの人も黒い人影がぶつかって、って・・・」
「な〜るへそ。じゃウメコ・・・かけっこだ!!」
「ロジャー!!」
「バッグ取り返してあげるね」と二人で声を揃えた後、雑踏の中を一直線に駆け出していった。


〜〜  〜〜


人ごみを掻き分けながらやった『障害物競走』のゴール地点は、ビルとビルの間に挟まれた小さな緑地公園。
勤務の時みたいにマシンドーベルマンがあれば、こんな風に息を切らして無駄な体力を消耗することもないのだが。
それにしても、オーディエンスというのは冷たいもの。
血相変えて捕物やっても、誰も気に止めようとはしないで知らんぷり。
もっとも走っている、それも怪しい人間を取り押さえるというのがムチャクチャな話。


「お待ち!!」
「バッグ返しなさい!!」

茉莉花と小梅が怒鳴りながらライセンスをかざすと、立ち止まった黒ずくめの男はマントを自ら剥ぎ取って、擬態を解く。
人間の輪郭が、さながら脱皮のように崩れていき、現れる本性。
まるで蜥蜴のような尻尾を携えた異様な風体、凶悪な面構え。
そして右腕には蛮刀、左の腕にはハンドメイドタイプのマシンガン。

「oh、モーレツ」

地球の言葉を理解していないのか、それとも単純に舐められているのか。
耳まで裂けた口元を吊り上げながら残忍な笑みを浮かべた後、茉莉花の言葉をかき消すように、無言のままマシンガンを地面に発砲する。
チェンジもまだなのに、いきなり先制攻撃してくるなんて・・・女の子に何すん
のよ!!
でもよくよく考えてみると、「待て」って言って観念するような相手だったら、こんなふうに本部直々の『お達し』なんて出ないか。

「こらぁっ!!」
「ノンノン、あちらさんも本気のようで。それよりも、見てミソ」


茉莉花に促されて小梅が辺りを見回すと、薄くなっていく硝煙に見え隠れする、夥しい数の影。
人ではない、機械人形。
アーナロイドは今にも飛び掛りそうな勢いで、そしてイーガロイドはソードで肩を叩きながら、不敵に佇む。
横に並んでいた小梅はすぐに相棒の後ろに回って、背中をくっ付け合うようにして立つ。

「アジャパ、スライムに囲まれちゃった」
「どうすんの?・・・ねぇジャスミン、ところでさぁ」
「何じゃらほい?」

「わたし、お腹空いた・・・レストランのランチ、まだあるかな?」

ホントにもう、このコは。
すぐに食べ事だし!
でもウメコの考えてることくらい、分かるよ。
ピンチの時ほどリラックスしないとね?
だから私・・・ううん、私達乗り越えられるんだ。
まぁこんな事なんてしょっちゅうだし、慣れっこだけど。

「ウメコ、一件コンプリートしたら、おごってあげる」
「へ?マジ!?チョー嬉しい!!」
「その代わり、私達だけで何とかしたら・・・だよ?アーユーOK?」
「イエ〜ス、アイラブユー、ダ〜リン」

さっきまでケンカして、膨れてたのに。
ゲンキンだなぁ、君ってヤツは。

まるっきりな日常の会話をする二人の表情は、どこまでもクールで熱くて、真剣。
深呼吸を一回ずつした後、

「チェンジスタンバイ!!」
「ロジャー!!」
気合を入れるように口を開いた茉莉花に小梅が応答して、身構えながらSPライセンスのスイッチをオンに入れる。

「エマージェンシー!」
イエローとピンク。
鮮やかな結晶に包まれながら、眼前のアーナロイドの喉許にサイドキックを蹴り込んで爆発させる。

「フェイス・オン!」
マスクに包まれ、デカメタルの結晶が完全にスーツを形成するのと同時にハイジャンプしながらディーショットを握り締める。
雨のようなパルスレーザーの軌道は、ただまっすぐに感情を持たない機械の尖兵を容赦なく撃ち抜いていく。

狙い定めなくてもどこかに撃ち込んだら、絶対に機能停止起こすから何も考えなくていいや。
よかった、公園に誰も居なくて。

二人の狙いは、奥の奥。
芳香のバッグを奪った、凶悪なアリエナイザー。
二度三度、ディースティックでイーガロイドの斬撃を切り払った後、一直線に二色の流線型が駆け抜けていく。

飛び上がりながら蹴りを放った小梅の中足が、空を切る。
そのまま空中で反転しながら、左の踵で二撃目。
鈍重な体躯に似合わず、異様なすばしっこさと勘のよさ。

懐に入った相棒を援護する茉莉花を嘲うように、ルドブンの硬い表皮はディーショットのレーザーを受け止めて、無力化していく。
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