二次元キャラ系SSまとめ
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┣天野×杉G01
作者:リン
◆キャスト
天野ひかる…深津絵里
杉裕里子…鈴木京香
「───せ。先っ、生っ!」
「…聞こえてるわよ。何?」
「聞こえてるなら反応くらいしてくれたっていいじゃないですか!」

憤然と抗議してくるしかめっつら。
ちょっと仕事に集中してただけなのに、これだ。

「あなたねぇ」

鼻先に指をつきつけて、私は軽く天野をにらみあげた。

「先生先生って、その呼び方止めてっていつも言ってるでしょう」
「イヤです。先生は先生ですから」
「駄目。却下。不愉快。今この瞬間から止めて欲しいわね」
「またそんなこと言ってー…いいじゃないですか、呼び方くらい好きにさせてくれたって」
「イー、ヤ。…天野」

どうも今日は譲りそうにない気配を感じて、私は先手をうつ事に決めた。
天野が何か言おうと口を開く前に、手元のノートパソコンを閉じがてら。もう一度天野を見上げる。

「良い?次先生って言ったら、今日のランチあなたおごりなさい」
「なっ!何考えてるんですか、先──」

むぐっと両手で口を覆う天野。
…こういう所。素直で可愛いのだ。
今にも頭を撫でてしまいそうな衝動をなんとか堪えて、私は不敵に微笑んでみせた。
白いほっぺたがぷぅと膨れた。

もうっ、何っ!?勝手な事ばっか言ってー──…」

ぶつぶつ言いながら席に戻って行く背中を見送りながら、こっそり吹き出す。
いつの間にか私のそばの机で顕微鏡を広げ始めた栄子が大げさなため息をついた。

「あんたねぇ。別に天野に恨みだ何だってあるわけじゃないんでしょ?も少し可愛がったげたっていんじゃないわけ?」
「あら。可愛がってるわよ。十分過ぎるくらいね」
「あっはは…あぁ〜あ、カワイソウなあ〜まの」

言いながら笑って顕微鏡覗いてるんだから世話はない。

「でもねぇ杉、そんなに嫌い?センセイー、って」
「好きじゃないわね。黒川、私いつかあなたにも言ったわよね、」
「"医者同士が先生って呼び合うのは虫酸が走るの"?…頑っ固ねぇ〜」

ケラケラ笑う栄子を一瞥してから、ふぅとゆっくり肩を回す。
ランチにはまだ少し早い時間。
これからちょっと天野の仕事を手伝ってやろうか。
あの天野の事だからきっとちょうど良い時間になる頃には、うっかり口を滑らせてるに違いないのだ。

「…ッ……!」


口を押さえて、目をまんまるに見開く天野。
ふと見やった時計は12時ジャスト。
本当に素晴らしいくらいの頃合い。
栄子を交えて会話をしていたら、いとも簡単に天野は「先生」と口にした。

あんまりおかしくてつい笑ったら、口を押さえたままの格好で天野は必死に首を振った。

「ちがっ…、違います!違うんです、今のは!」
「何が?」
「だからその…わたし、先生じゃなくて!宣誓って──」
「ダジャレじゃないのよ」
「! そんなつもりじゃ!」
「はいはい。良いから大人しく負けを認めるのね」
「ひどいですよ…」

うなだれる天野は多分、本気でランチをおごるつもりだろう。

そんな可愛い反応ばっかりするから。つい、いじめたくなってしまう。
天野にしてみたら良い迷惑に違いないんだけど、あなたのせいなんだから。仕方ないでしょ。

「…あんまり高いのにしないでくださいね」

恨めしげに見上げてくる天野に、にやりと唇を持ち上げてみせる。
ご愁傷様、なんてぽんぽんと天野の肩を叩く栄子を横目に見やりながら、
今日の所はコーヒー一杯で許してやっても良いかと思った。

オゴリはコーヒーだけって判ってホっとしたのか、さっきの私の意地悪なんかケロリと忘れたように。
私の話に聞き入りながらニコニコとオムライスを頬張る天野を呆れて眺めながら、ゆったりと煙を吐き出す。

「でも先…あの、どうしてそこまで毛嫌いするんですか?」
「毛嫌いってあなた、大げさな人ねぇ」
「…先生。わたし、何も皮肉で先生って呼んでるわけじゃないんですよ?」
「判ってるわよ」
「じゃあ──」
「でも嫌なの。別な呼び方にして。悪いけど」
「別なって…う〜〜ん」

もぐもぐしながら唸る天野に、私は補足を加える。

「そもそも天野、私達そこまで歳の差ないでしょ。それに私には先生じゃなくて、"杉裕里子"って名前がある」

その言葉に、天野が私を見つめる。
何を言おうか考えあぐねている様子で、オムライスをつつくフォークをもてあそんで。

そろそろ、ホントの意図に気づいてくれた?

「じゃあ──」
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