2006/06/12
┗天野×杉D01
作者:不明
◆キャスト
天野ひかる…深津絵里
杉裕里子…鈴木京香
天野が私の部屋に来ることになった。
以前から来たいと言いたそうにしていたのは気づいていた。
私から誘うのは照れ臭かったので黙っていたのだ。
今日はついに、天野がしびれを切らしたようで・・・。
「杉先生、確かプロジェクター買ったっておっしゃってましたよね。」
「ええ、そうよ」
「うちのDVDプレイヤー壊れちゃったんですけど、明日までに返さなきゃいけなくて。
・・・先生のお部屋で一緒に見てもいいですか?」
なんて可愛いのだろう。でも素直に言わないから、つい意地悪を言ってしまう。
「プロジェクターなら栄子も持ってるわよ。」
とたんに天野がしゅんとする。なんだか次の切り替えしを考えている様子だ。
次は直球かな、と予想してみる。
「杉先生の。杉先生のお部屋に行きたいんですけど。やっぱり急だし、ダメですよね。」
「失礼ね、私の部屋はいつだって片付いてるわよ。
いらっしゃい。」
最後は努めて優しく言ってみたら、天野には伝わったみたい。いつもよりも元気な「はい!」の返事が返ってきた。
家に向かう間、天野は饒舌だった。
家族のことや学生時代のこと、今住んでいる部屋のこと。
「今度来て下さいね」と最後に言われたときは、それまでの「へぇ」「ふーん」とか「そう」ではなく、「そうね」と答えたこと、天野は気付いただろうか。
うちに着いてからも天野はせわしなかった。
「コーヒー入れるから座ってて」
「あたしやります!」
「いいから座ってて」
「でも私が押しかけたのに」
「キッチンあんまりさわられたくないの」
「・・・すみません」
また冷たくしてしまったみたい。
でもブラックしか飲まない私の家にあなたのためのミルクのポーションが準備してあること、あなたなら気付いてくれるんじゃないかなと思う。
お気に入りの背が低いアクリルのテーブルにマグカップを2つ並べたトレーを置いて、ソファーにちょこんと腰掛けている天野の隣に座る。
「このミルクってもしかして?」
にんまりした、でもほんの少し不安げな天野の顔が私に近づく。
やっぱり分かってくれたのね。
「あなたのために買っておいたのよ」
さらっと言ったつもりだけれど気恥ずかしくて、頬が紅潮するのを感じた。
ソファーを立ってDVDをセットして、照明を暗くする。
暗くしたら胸の高鳴りが天野に聞こえてしまうような気がして、更に鼓動が速くなった。
こんなにも自分が典型的に天野に恋をしているなんて、と心の中で苦笑する。
ふと天野がもってきたDVDのケースを見たら、期限は一週間後。今日借りてきたらしい。
なんていじらしい子なんだろう、こんなすぐばれる嘘をついてまでうちに来たかったなんて。
気づくと、天野は私の肩にもたれて眠っていた。
饒舌になっていたり、立ったり座ったりせわしなく動いてみたり、やっぱり緊張していたのね。
暗くしたら眠ってしまうなんて、本当に子供みたいだ。
止めたら天野が気づいて起きてしまうかもしれないから、ボリュームを少し下げるだけにした。
私はこの映画は昔観たことがあるのでストーリーは今は正直どうでもいい。
肩越しに伝わる体温、無防備な(いつだって無防備だけど)寝顔、小さな寝息、その全てが愛しくて仕方ない。
「すぎせんせ・・・」
寝言でも私を呼んでいるなんて。
「天野、大好きよ。」
夢の中の天野には届かないだろうけど、そう呟いて頭にキスをした。