二次元キャラ系SSまとめ
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┣茉莉花×小梅A02
作者:むらさめ
◆キャスト
茉莉花(ジャスミン)…木下あゆ美
小梅(ウメコ)…菊地美香
定刻よりちょっとだけ遅れてブリーフィングルームに入る。
十二秒の遅刻、爽やかな朝。
私達地球署スタッフの居住スペースはデカベースの中にあって、跳んでも八分歩いて五分。
だからお寝坊でもしない限り、滅多な事じゃ遅刻なんてナンセンス。

「あ、おはようさん」
「おはよう」

この週のシフトはお昼がホージーとウメコと私、夜がセンちゃんとテツ。
ボスは出張、スワンさんは研究室、テツは別件で席を外してて、ホージーとウメコはまだ入ってない。
つまり要するに、今ブリーフィングルームに居るのはセンちゃんと私。

「五時から男、お疲れさん。もう引き継ぐよ、ほい」
「これはこれはどうもどうも」

インスタントのコーヒーを煎れてセンちゃんに手渡す。
何口か啜ってから、間が空く。
別に空けたくて空けてるわけじゃない、ファイル整理やら雑務で自然と会話が無くなる。

「ジャスミン・・・ウメコどう?」
先に口を開いたのはセンちゃんだった。
いつも通りの茫洋とした感じの口調だった。
「ん〜・・・そうさなぁ、もういいんじゃない?やっぱ立ち直り早いから・・・」

「迷惑だったんだよねぃ、はっきり言って、さ」

私が問いに答え終わらないうちに、センちゃんは冷たく言い放った。
まるでゴミでも捨てるような感じだった。

一瞬、耳を疑った。
センちゃんは皆に優しくて、彼女だったウメコにはことさら優しかったんだと思う。
二人に何があったのかなんて知らないし、知りたくもない。

穏やかで優しいセンちゃんがウメコをそんなふうに詰るのが、信じられなかった。

「迷・・・惑?」
「そう、迷惑。だって考えてみたら結婚詐欺に遭ったのだって、自分が油断したからでしょ?その寂しさを俺にぶつけられても困るんだよ。それに作る料理は不味いし、身体の相性だって・・・そうだ、ジャスミンがウメコの代わりになってくれるの?」

冷静になれば、いつもの彼の言動じゃないって事くらいすぐ分かる事なんだとは思う。
でもそんな事どっちでも良かった。
ウメコをバカにされた事に、私をバカにされた事に怒りが込み上げる。
センちゃんの顔なんて映らない。
目の前に映ったのは古ぼけた映画のフィルムみたいに再生される、いろんなウメコ。
はにかみ顔。
幸せそうな顔。
センちゃんを思いあぐねて魔法使いの兄弟の「芳香ちゃん」に相談しては頬を赤らめる顔。
振られて泣いた夜。
眠りに就きながら見せた涙。

ウメコの何もかもをめちゃくちゃに踏みにじったんだね、この人は。


ふうっ、とため息を吐いた後、センちゃんの頬に往復で平手をぶつけた。
それでも気が済まなくて、手袋を外してから床に思い切り叩きつけて叩いた。
しこたま引っ叩いた。
平手を拳骨に代えて、何度も何度も殴った。
多分誰かの事で感情がむき出しになったのは初めてだった。

――気は済んだ?――

叩く場所から声が微かに聞こえるけど、頭の中が煮え繰り返ってるからよく読み取れない。
自動ドアが開く無機質な音が割って入った後、泣き叫ぶような声が耳に入ってきた。

「ジャスミン、何やってんのよ!?二人とも止めて、お願い!!」
「いいんだ・・・」

いいんだ?
一体何がいいの?
卑屈な態度に余計でも怒りが込み上げてきた。
「センちゃんの事、微妙にじゃなくて激しく見損なった。殴られて済ませよう、って思ってるんだ?・・・ならお気に召すまま、メッタメタのギッタギタにしてあげる」

左手で昼行灯の胸ぐらを思いっきり掴む。
そうだよ、止めるつもりなんてこれっぽっちもない。
ウメコと私をバカにした落とし前はきっちり付けてもらう。
顔の形が変わるまで殴って蹴ってボコボコにして、土下座させる。
自分自身にそう言い聞かせた。

だけど私の暴走はあっけなく止まる。
無意識のうちに右手で握ってた彼女の掌が、妙に汗ばんでた。
次に視界に飛び込んだのは虚ろな眼差しと、立ってるのもやっとのふらついた小さな身体。

彼女の意識を読むより先に、冷静さを取り戻してた。

口を血で滲ませたセンちゃんと顔を見合わせる。
額を触ってみると物凄く熱い。

「ジャスミン・・・セン、さんも・・・やっと、おちついてくれた・・・」
彼女は力の無い声で、私に口を開く。
「メディカルセンターに連絡する、あとスワンさんにも」
「うん・・・具合悪い?しっかりして」
「へへ、こんなのへっちゃらだよ・・・だいじょうV・・・」

ウメコは安心したような表情を浮かべた後、錯乱しそうになってる私の腕の中に崩れ落ちた。
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