2007/05/16
┣茉莉花×小梅A01
作者:むらさめ
◆キャスト
茉莉花(ジャスミン)…木下あゆ美
小梅(ウメコ)…菊地美香
[YOU ARE LOVED]
「お弁当くっ付いてる」
「うぐ(いいよ)」
「だめ、レディがお行儀悪いわよ」
「もう、自分で取るよ、いいから」
やっと見せてくれた。
嬉しそうにがっつきながら、ひさしぶりに子供みたいな屈託無い笑顔を見せる。
〜〜 〜〜
突然恋が終わっちゃう事は、往々にしてある。
ちょっと前に、ウメコはセンちゃんとさよならした。
理由は、知らない。
土砂降りのその日の夜遅く、何度も鳴り響くインターホンに叩き起こされてドアのロックを解除した。
「何方様で?」
こんな事するのは誰だかだいたい目星は付いてたけど。
「・・・・・・」
ビンゴ、やっぱりだ。
びしょ濡れの私服で思い詰めたような表情。
そして、震える瞳と唇で何があったのか、だいたい理解できた。
「何じゃらほい・・・?」
私がずっと見つめ続けたら、彼女は胸に飛び込むように抱きついて、しゃくり上げて泣き出した。
それから暫くの間は、元気な「ウメコ」で勤務をこなした後、私の部屋で「胡堂小梅」に戻って泣き続けた。
恋の痛手・・・ううん、辛い事から立ち直る方法は、気が済むまでたくさん泣く事。
そして立ち直るのは私じゃない、彼女自身。
だから黙って見守って、時々頭を撫でたり背中を擦ったり、抱き締めたりして慰め続けた。
〜〜 〜〜
「ねぇジャスミン」
「何じゃらほい」
「だぁ〜〜〜〜いすきだよ」
晩御飯を終えて洗物をしてるときに、ウメコは後ろから私に言ってくれた。
「またまた、そんなご冗談を〜〜」
「ホントだもん!ジャスミンとキスしたっていいもん!」
だぁ〜〜〜〜いすき、か。
私だって、ホントだもん。
ウメコがだぁ〜〜〜〜いすきだもん。
キスしたっていいもん。
キスだけじゃなくてもいいもん。
本音が言えないもん。
ウメコは友達で、パートナーで、かけがえのない大切な存在。
その気持ちは地球署に配属されて、彼女に初めて出逢った時から変わらない。
持って生まれた『自分の力』を理由に蔑まれ続けてずっと他人に心を開けなかった私に、最初に笑顔を投げかけてくれた。
いっぱい、じゃれてくれた。
そんなウメコが大好きだから、センちゃんと付き合い始めた時は自分の事みたいに喜ぼうって決めた。
幸せな笑顔を見続ける事が出来るなら、これでもいいって思った。
だけど、それは嘘。
センちゃんと少しずつ仲が深まっていく代わりに私から少しずつ離れていく・・・そんなのが嫌だったから「ウメコと私は女同士だから恋人になれない、だから私はウメコに想いを伝えちゃいけない」って、呪文みたいに心に刻み込み続けた。
短くなった髪の毛は、その証拠。
「デザートだよ・・・ん?」
あれ?
応答が無くなった。
リンゴ剥く手を止めて振り向いてみると、ウメコはいつの間にかこたつの中で船漕ぎをはじめてた。
疲れたんだろうな、ずっと泣き通しだったもん。
「ニンともカンとも」
小さい身体をそっと抱きかかえて、横たえる。
目尻が光ってた。
それでもとても穏やかで、優しい寝顔だった。
私の手まで握ってる。
強く握ってる。
・・・ねぇ、今どんな夢見てる?
センちゃんの夢?
私の夢?
この邪魔臭い革の布切れさえ取っ払っちゃったら、どんなに楽だろ。
夢でも、逢えるよね?
「あしたも、笑ってね」
灯りを消して、頭の下に膝枕を布いた。