2007/02/09
┗天野×杉E11
作者:どこ天
◆キャスト
天野ひかる…深津絵里
杉裕里子…鈴木京香
[個人授業]
杉先生の授業は、キスに始まってキスに終わる。
これが私が身をもって体得した知識…と言うと聞こえがいいけれど、いわゆるわかったこと。
一度は先生を押し倒してみたものの、私ではやっぱり役者不足だったのか何時も通りに立場は逆転し…今、正に個人授業の始まり始まり〜…という感じ。
私、もしかしてちょっと情けないかなぁ…。
でも、嫌われてないならそれで…いいかな、うん。
「そうだ、先に言っとくけど…ちょっと今日は自信ないわよ?」
先生の顔が近づいて、優しい唇を待って瞳を閉じていた私は、その言葉にふと目を開ける。
「…何が、ですか…?」
「優しくする自信。あなたよく『待ってください』って言うけど、今日は待ってあげないわ。覚えといて?」
途端に全身の血が逆流する。頬が熱を帯びて真っ赤になっていくのが、自分でも解る。
さっきから心臓が早鐘を打って仕方ない。人の身体の構造上、心臓が口から飛び出すなんてことは考えられないことだけれど、そういうたとえを作った人は…きっと私みたいな思いをしたことのある人なんだろうな。
「じ、自信がない…自信がないって先生、怒ってる…んですか?あ!もしかしてさっき押し倒しちゃったことですか?だったらすみません、あの、私…」
先生は黙って聞いている。
じっと私の方を見ているけれど、その視線はとても穏やかで…あれ?
――怒ってるんじゃ、ないのかな…。
だったら何なんだろう。
不思議に思いながらも言葉を紡ぐ途中、酔いも手伝ったのかとうとう呂律が回らなくなって軽く舌を噛んでしまった。
「…っ、いた…!」
当然のことながら間抜けな私の失態に、先生も笑い出す。
バカ、と言いながら微笑む、その笑顔が優しいことにも私はひどく安心してしまう。
「あなたもよくよく進歩の無い人ね?誰が怒ってるなんて言ったの」
そしてもう一度楽しそうに『馬鹿天野』と私の鼻先を指でチョンと突く。
何がそんなに嬉しいんだか解らないけれど、でも先生の優しい笑顔を見ていられるなら…それだけで私は幸せ。
「そうじゃなくて…単にブレーキが利かないの」
「っん…!」
急に唇を塞がれて、大好きな先生の笑顔をうっとりと見つめていた私は突如現実に戻される。
何時もよりも激しいキス。
甘く陶酔するような夢心地なんて一体何処に行ったのか、ただ呼吸をすることだけを必死に考える。
「すぎせ…ッ、ちょ、待っ…」
「言ったでしょ、『待たない』の」
言葉も吐息も飲み込むような、嵐のようなキスに簡単に翻弄されてしまう自分が情けない。
唇を割って侵入してきた生温かな舌にも、私の身体は小さく震えて感じてしまう。
初めてなわけじゃないのに、いつもいつもキスだけで、私の頭は真っ白になってしまう。
先生のことだけしか、考えられなくなってしまう。
「んんっ…」
舌が優しく絡み付けば、解こうとしても絡み合うだけ。深く深く絡み合えば、自然と何かに縋りたくなる。
手を伸ばして、そっと先生の腕へと滑らせる。ほんの少しだけ、穏やかになるキス。
服を掴む手を捕えられると同時に、優しく絡んでくる指先。
狂おしい程何かに縋りたい私は、その手を強く強く握り締める。
そうしてその唇がゆっくりと離される頃には、私の身体はふわふわと何処かへ飛んで行ってしまいそうな程に力を失って。
強く握り締められた手の力だけが、唯一私の支えになる。
「努力はしてみるけど…多分無理ね。天野が悪いのよ?大人しく諦めなさい」
「…は…」
頷く以外に、私に何が出来ただろう。
――やっぱり、先生には適いません。
再び唇を塞がれながら、そう思った。