2007/01/04
┗天野×杉F02
作者:不明
◆キャスト
天野ひかる…深津絵里
杉裕里子…鈴木京香
甘い匂いが鼻先をかすめたのは、それから少ししてからの事。
腕を緩めて 体を離すと、
…さっきは気づかなかった。
その手からのぼる白い湯気。
紙コップの中身が甘酒だって判ってすぐ、抱き返してこなかった理由に気づいて思わずホっとする。
成程、ね。
「…それ?」
「甘酒です」
見れば判る、だなんていつもの私なら言う所。
言わなかったのは、
言えなかったのは、
ほら。今日がこんな日だから。
言い訳にするにはなんて絶好の日。
生まれて初めて今日この日、おめでたい気分になれた気がする。
杉先生って甘酒飲めますか?」
「知らないで持って来たわけ?」
呆れて笑うと、天野は目をそらして泳がせた。
「えっと、その」
「飲むわよ。割と好きな方かもね」
「──もぉ」
相変わらず微笑ましいふくれつら。
思わず、
悪戯ごころ。
少し声色の違う「好き」を、もう一度。
少し首を傾げて囁くと、意図に気づいたのか否か。
天野が不思議な表情でこっちを見つめる。
「あのー…」
「好きよ?」
「そ、そっ、そうですか?ならこれ──」
「天野」
背けようとする顔を、頬に手を添えてゆっくりこちらに向ける。
恐る恐る、天野が目だけで見上げてきて、
「好き」
みるみる朱を帯びる頬。
指先にふわりと伝わり始める熱。
なんだかもう、どうしようもなく。いとおしくて。
くるくるかわる表情を眺めながら、止まらなくなってきた自分に今さら気がつく。
止めようとも思わないけど。
「天野。駄目?」
「へっ?」
一瞬揺れた瞳が、またこっちを見上げる。
「まだ熱いのね」
コップを持つ手に手を重ねながら、鼻先が触れるくらいに近づいて。じぃっと瞳を覗き込む。
私を押し戻すでもなく、目もそらせなくなっている天野が、こくりとのどを上下させたのが判る。
「そりゃあ…いれ、いれたてですから」
「そ。なら少しは大丈夫よね」
「えっと」
「ねえ」
もう一度。
「…駄目?」
視線を、
捕えた
「──」
一瞬の間。
長い睫毛を伏せたのを肯定と受け取って、
甘酒よりも先にそれにありついた。
離れた口唇。
ふっと頭に浮かんだのは、柄にもない虫の知らせ。
私が思わず笑みを浮かべたら、天野が怪訝そうに首を傾げて見上げてくる。
「先生?」
「何」
「なに笑ってるんですか?」
「飲まなくて良かった、と思って」
「へ?」
「べつに?」
コーヒーなんか飲んでたら、この味は判らなかった。
なんて、言える訳はないけれど。
「ちょっ…どういう意味ですか?」
「気になる?」
「はい。気になります。教えてください」
「…。お断りよ」
「なっ」
さっき。
ほんのり舌先に感じた味は、甘酒。
「ほら。冷めるわよ。くれるなら早く頂戴」
「もう、なんなんですかっ?人がせっかく──あっ」
それは彼女がきっとほんの一口だけ、味見した証拠。
「お先に」
気づかないフリしてあげる。
から、
「…もー」
そう。その顔。
もう少しだけ、笑って、
ここにいて。