2007/06/01
┗茉莉花×小梅A42
作者:むらさめ
◆キャスト
茉莉花(ジャスミン)…木下あゆ美
小梅(ウメコ)…菊地美香
小津芳香…別府あゆみ
男(天道総司・仮面ライダーカブト)…水嶋ヒロ
「つぅっ!」
「きゃぁっん!!」
一寸の隙で、手痛い反撃。
回し蹴りじゃない、尻尾の一撃の後で刀で切りつけられる。
思いっきりぶっ飛ばされる。
何かのマンガみたいじゃん、これじゃ。
あんまりにも・・・とまでいかないけど、ちょっと強いかな?
「ウメコ、よそ見しちゃメッ!」
抱き締めながら転がった。
追い討ちかけるみたいに、今度はマシンガンの雨あられ。
どうせくれるんだったら、感謝感激にして!
【clock up!】
唐突に、「救世主」は現れる。
日ごろの行いの良さか、それとも茉莉花と小梅の美貌に神様が答えてくれたのか。
片付け損ねた三体のイーガロイドが止めを刺そうと、ソードを振り上げた瞬間に聞こえる、微かな電子音声。
その正体が何なのか考える間もなく、二人の身体はイーガロイドから引き離されていた。
「痛!・・・く、ない・・・?」
「ジャスミンあれ!」
立て続けに視界に飛び込む、旋回する火の玉。
火の玉は茉莉花と小梅を守るように、ことごとく尊大な機械人形を打ち据えていった。
「あれって・・・」
「真っ赤な、カブト虫?」
ルドブンにも一撃を加えた後、やがて赤いカブト虫は公園の入り口に滑空していった。
「おばあちゃんは、言っていた」
声の主の手の中に、すっぽりと納まる。
「男がやってはいけないことは三つある。一つは女の子を泣かせること」
背の高い、眼光の鋭い男だった。
「食べ物を粗末にすること。最後は・・・」
静かな声が響き渡る。
「愛し合う者を、傷つける事だ」
歩を進めながら、来ているジャケットを翻す。
「キサマ、ナニモノダ!!」
覚え立ての地球の言葉を使ったアリエナイザーに、さらに続けた。
「天の道を往き、総てを司る男・・・」
重たげな、鈍く輝く鉄のベルトにカブト虫をセットした。
「変身!!」
眩い光が、男の身体を包み込んでいく。
茉莉花と小梅が見慣れた宇宙警察の開発したデカスーツとも、アブレラ達の作り上げたマッスルギアとも全く違う。
例えればそれは、「蛹」。
襲い掛かるアーナロイド達を的確に葬っていく。
アーナロイド達の攻撃を受け止めながら、叩きつけ、握りつぶし、吹き飛ばして爆発させていった後、カブト虫のホーンをゆっくりと右に反転させた。
【cast off・・・change beetle】
銀色の蛹は勢いを増して弾け飛ぶ。
猛スピードのそれは、まるで意思を持った弾丸のように有無を言わさず、アーナロイドとイーガロイドのみを狙い撃ちながら無慈悲に殲滅させていった。
そして現れる姿、せり上がるホーン。
身体中に隆起していく、カブト虫の意匠。
例えればそれは「脱皮」。
ルドブンが男にマシンガンを撃つ。
それを意に返さず、無言で歩み続けていく。
ジャンプをしながら、男の蹴りが炸裂する。
冷蔵庫を二階建てのビルから落下させたような、凄まじい音が響く。
叩きつけるような蹴りの後、ボディブロー。
いや、ボディブローではない、空手の正拳中段突きのような、腰を落とした重い突き。
ルドブンの右手の刀を受け止めるのは、腰に提げたクナイ。
「グギャアッ!!」
鍔迫り合いの後、さながら血しぶきのように飛び散る火花。
すれ違いざま、残像を残しながらウロコを切り裂いていく。
「ちょっと何よこれ?」
「さぁ、私聞きたい、何じゃらほい?」
「分かんないってば!でもこれ、アリエナイザー・・・じゃないよね?」
「違うと思う」
「じゃ、正義の味方?」
「うん・・・カブト虫に悪い人は居ない。天が呼ぶ地が呼ぶ」
「人が呼ぶ!ジャスミン!!」
とにかく、わたし達を助けてくれた事に変わりないから、お礼しないと。
あとは野となれ、山となれ!!
茉莉花と小梅は顔を見合わせて立ち上がると、再び高く飛び上がる。
「えいっ!」
掛け声と一緒に感じる手ごたえ。
いや、「足ごたえ」とでも言うべきだろうか。
二人は飛び横蹴りを確実にルドブンの眉間に叩き込む。
「はっ!」
後ずさりして怯むルドブンに追い討ちを掛けるように、更に男の後ろ蹴りが鳩尾にヒットする。
堪えられなくなったルドブンの口から苦悶の呻きと共に吐き出される、黒い物体。
「見つけた!」
体内に隠してあった芳香のバッグを見た小梅は、もう一度ジャンプしてその手にしっかりと握った。
「やったね」
二人は男の顔を見る。
「一緒に撃つぞ」
うん、と大きく頷くと、SPライセンスを取り出してジャッジメントモードに切り替える。
「リタカ星人ルドブン、18の星系における無差別大量殺人、強盗、暴行および地球における窃盗の罪で、ジャッジメント!!」
宇宙最高裁判所からの判決は、赤い色。
「デリート許可!!」
刑の執行を許される、真っ赤な罰。
猛スピードで二つに散開した二人、そしてその場に立ったままの、男。
「はああぁっ!!」
茉莉花は逆手、小梅は順手。
ディースティックを抜き放ちながら気合を込め、勢いを付けて挟み撃ちにして、一閃する。
打突に用いられるそれは、鋭利なサーベルのようにアリエナイザーの身体を引き裂く。
【one,two,three・・・】
ルドブンが苦悶の表情を浮かべながら逃げるように駆け出すのと、男が再びまっ
すぐに歩き出すのは同時。
ベルトのボタンを三つ、順番に押しながら悠然と歩く。
「ライダー・・・キック・・・!!」
エネルギーチャージされた右足がディーソードベガのように煌く。
抵抗するルドブンの首を、刃のついた右腕ごと刈っていった。
爆発音、舞い上がる炎、そして未練を残すような断末魔。
跡形もなく、原子に還っていった。
「まさかこんなところに客がいるとはな」
ドギーやスワン、そしてホージーによって本部への事後報告がされることとなる事になった。
茉莉花と小梅がチェンジを解除するのを見た後、男はベルトにセットしてあったカブト虫のホーンを戻して元の姿になりながら、してやったりといったような表情で言った。
「は?」
「客?」
何だろ?
確かにわたし達、お昼ご飯食べ損ねてる。
「お客」って、この人食堂か何かやってるの?
ううん、食堂って感じじゃないかな・・・お洒落なレストランのシェフ、って感じかな?
「ウメちゃん、ジャスミンさんありがと・・・あっ、この人知ってる!」
目が点になる二人の後ろから、追い着いた芳香の声がした。
芳香は二人に頭を下げながら言って、話し始めた。
どうやら何かの雑誌から口コミで広がって有名になったレストランの雇われシェフだとかで有名な人らしい。
女性雑誌にはくまなく目を通す小梅でも、さすがに見落としていたようで。
「ジャスミン・・・どうする?」
「どうするも何も、高貴な振る舞いには高貴な振る舞いで返さないと。助けてくれたお礼しよっか」
「そうだね・・・わたしお腹ぺこぺこだし!早く行こ」
「ノンノン、ジャストアモーメント」
「その前に」と、急く小梅の頭を軽くなでた茉莉花は、スッと小梅の足元にしゃがみこむ。
「膝っ小僧、擦り剥いてる」
しゃがんでからハンカチを取り出すと、血を拭き取って手袋を外してカットバンを膝に貼った。
「いいよ、痛くないから」
「甘〜〜い、バイキン入ったら困る」
「いいってば!」
「だめっ!!一人じゃないんだよ、私がいるんだよ!何かあったらどーするのっ!?」
いきなり、大きな声出して。
やっぱり冷静じゃないじゃん。
最近いっつも、わたしの事になったら冷静じゃなくなるんだから。
でも、ありがと・・・
大好きだから、わたしも。
「へへへ〜〜〜、ふ〜ん・・・そうなんだ〜〜」
二人の一部始終を見ていた芳香が、ニコニコしながら突然口を開く。
「へぇ?な・・・何?」
ハッとしたようなリアクションの後、気まずそうに口をそろえて言葉を返す二人の顔は、耳まで真っ赤。
「何がじゃないよ!ウメちゃんの新しい恋人、ジャスミンさんなんだ!」
さらに核心。
当然、芳香に悪気などは無い。
いや、長女ゆえの洞察力というべきだろうか、むしろその笑顔には小梅の事情を何となく察していたような感すらある。
もっとも小梅にしても、先ほど芳香に問い詰められた時に白状する覚悟をしていたのだが。
「え、えぁ〜〜〜〜、まその〜〜・・・」
「いいんだよ、芳香だってお見通し!センちゃんさんと居る時より、すっごく幸せそうだもん!うん、そっちの方がお似合い。幸せなのが、一番一番!!」
取り返したバッグの中から鳴るマージフォン。
おそらくはこれから勝負をかけるであろう、相手からのもの。
芳香がピースサインを作って立ち去った後、男も人差し指を天に掲げながら静かにその場を後にする。
「あれ、何これ」
男が立っていた場所には、「天」と描かれた一枚のカード。
『今日のスペシャルメニュー ひよりランチ お値段 時価で応じますただし、カップルで来られた場合は二割引きにて提供致します。 レストラン「Bistro la Salle」』
カップルねぇ・・・・・・
カップル??
だったらわたし達、その男の人にも・・・
「そうみたいだね、さっき助けてくれた時、『愛し合う者を傷つけたらいけない』とか言ってたし。助さん、格さん、参りましょうか」
時代劇のヒーローのように高笑いする茉莉花。
戦い疲れと空腹でどうでもよくなった小梅も、一緒になってケタケタ笑い出す。
「でも場所は?」
「たぶん、あのコに付いて行ったら分かるんじゃない?」
道案内は、さっきのカブト虫。
まるで早く来いよと言うように、元気よく飛び回っていった。
これにて一件コンプリート。
全ては君を、愛するために。
fin